あらためて、トラウマって何だろう

 ホームページにも載せていますが、暴力、虐待、自然災害、事故や落下、重い病気、手術、大切な人をなくす(喪失)などといった非日常な出来事や、人からの裏切り、いじめ、歯科処置、転ぶといった日常的に起こりえる出来事でさえトラウマとなることがあります。『トラウマ』という言葉は、今や日常的に使われるようになりましたが、あらためて、トラウマとは何なのかについてまとめてみたいと思います。

トラウマとは

 トラウマ traumaは、精神的外傷あるいは心的外傷と訳され、 個人の対処能力を超えるような大きな打撃を受けたときにできる心の傷のことです。
 このトラウマによって形成される精神疾患がPTSD(Posttraumatic Stress Disorder)です。PTSDの診断は、米国精神医学会診断統計マニュアル第5版(DSM-5)の基準に当てはまるか否かによります。この診断基準の一つに、「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への直接的体験、他人に起こった出来事を直に目撃する」という基準項目があります。
しかし一方で、こうした客観的な視座よりもむしろ、主観的にどう感じたかが重要なポイントであるという見方もあります。したがって、はた目からはどんなに些細な出来事であったとしても、本人にとっては心に傷を負う体験となることがあるのです。
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単回性のトラウマと複雑性のトラウマ

 単回性トラウマとは、災害や事故、一回の暴力や暴言など、一度の異常な出来事によるトラウマのことです。トラウマを被った本人も、日常とは違う異常な体験をしたと理解できることが多いでしょう。
 これに対して、複雑性トラウマとは、異常な出来事が繰り返し行われて、それが日常となってしまうトラウマのことです。たとえば、幼少期において日常的に虐待を受けてきた場合、異常な体験が日常になるので、自分がおかしいのか、他の人がおかしいのかわからなくなり、自分や世界に対する考えつまり信頼感が揺らいでしまいます。そのため、自分がトラウマを被っていることが、単回性のトラウマよりもわかりにくいかもしれません。また、大人になってから度重なる事故にあったり、日常的にDVを受けているとトラウマが複雑化することもあります。

トラウマによる影響

 トラウマは過去に負った傷なのにも関わらず、適切なケアがないままでは、今の生活に影響を及ぼすことがあります。症状としては、不安やパニック発作、感情コントロールの困難、過度の警戒、うつ傾向、無気力、人と関われない、不眠、免疫機能の低下など、じつに様々です。
 また、本来はトラウマを受けてもなお生きているのですから、トラウマよりも強い存在であると言えるのです。しかし、なかなかそうは思えないばかりか、自分が悪いから、自分が弱いせい、と自責的になることがあります。こう思ってしまうことも、トラウマによる影響と言えるでしょう。

トラウマのケア

 すでに述べたように、トラウマは主観的な体験に依拠するものです。それゆえ、誰もがトラウマに陥ってしまう可能性があるのです。けっして、自分が悪いから、弱いから、という理由ではありません。一方で、誰もが危機的な状況に陥ると、トラウマになるわけでもありません。しかし、トラウマによって日常生活に支障がでているのだとしたら、そのままにはせずケアすることをおすすめします。ソマティック・エクスペリエンシング®を受けながら、一緒に取り組んでいくこともおすすめですが、まだそこまでの準備ができていないようであれば、『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』白川美也子著(アスク・ヒューマン・ケア)を読んでみるのはいかがでしょうか。この本はトラウマやその対処方法について、わかりやすく、優しく説明してあります。すぐに取り入れられるエクササイズもあるので読みやすいと思います。ご参考までに。