ソマティック・エクスペリエンシング®について


 ソマティック・エクスペリエンシング®(以下、SE™)は、身体の感覚を通してトラウマの解消を目指していくセラピーです。身体に働きかけるので、たとえその出来事を詳しく覚えていなくても行うことができます。そして、その人が”これくらいなら大丈夫”と思えるくらい少しずつ進めていき、身体の中で留まり続けていたトラウマのエネルギーを解放させていきます。ここであらためてSE™でのトラウマの考え方についてご紹介したいと思います。HPにある『ソマティックエクスペリエンシング🄬について』もご参照ください。
 

危機的な状況に陥ると

 人は危機的な状況に陥ると、まずは戦うか逃げるか(闘争・逃走反応とも呼ばれます)という戦略をたてます。たとえば、遠くにクマが見えたら、多くの人は逃げます(逃走反応)。クマに対して、やむを得ず戦うという戦略(闘争反応)をたてることがあるかもしれませんが、難しいことでしょう。では、クマが目の前にいたらどうでしょうか。すでにガオーっと襲われそうになっていると、人は戦うことも逃げることもできません。戦略をたてることができない、危険に備えることができないと、人は凍りついてしまうのです。身体をギュッと固めたり、意識が身体から離れて麻痺が起こったり、失神して倒れることもあります。知っておきたいこととして、凍りつきは悪者ではないということです。凍りつくのは人が生き延びるために、自分を守るという側面があるからです。凍りつくことによって、クマが襲ってきても怖さは感じにくくなり、痛さも感じなくて済むわけです。
 ここに登場するクマは、人によっては上司や先生、友だち、親だったりします。交通事故や転倒、医療的な処置(医療的には正しい処置であっても)においても場合によっては、避けられない攻撃として傷つき(トラウマ)となることがあります。
 

自律神経系で起こっていること

 このように私たちが危機的な状況にあるときには、自分を守ろうとして戦ったり、逃げたり、凍りついたりします。それぞれ闘争反応、逃走反応、凍りつき反応(フリーズ)と言ったりもします。
 このとき自律神経系では何が起こっているのでしょうか?私たちには、耐性領域という物ごとに圧倒されることなく対処できるストレスの範囲があります。この耐性領域の幅は人それぞれ違いがありますが、いずれもこの範囲内であれば、人は快適に過ごすことができるのです。ところが、この耐性領域を超えるような出来事を経験したとき、そしてその後適切なケアがない時に、人はトラウマの影響を受けることになります。このとき自律神経系では、交感神経や副交感神経の一部(背側迷走神経)が、その人の耐性領域を超えていると考えられます。その結果、トラウマによる様々な症状としてフラッシュバック、悪夢、不眠、イライラ感、集中力の低下、感情の麻痺などが現れるのです。
 

トラウマは誰にでも起こり得る~トラウマ≠出来事の大小

 「こんな(小さな)ことでトラウマになるはずがない」というお声を聞くことがあります。でも、これは正しくはありません。トラウマは出来事を指すのではありません。非常にショッキングな出来事や、命の危険があるようなことだけを指すのではないのです。トラウマの症状は、ある出来事がその人を傷つけ、圧倒したとき、つまりその人の耐性領域を超えてしまったときに、身体の中で行き場をなくしたエネルギーが滞って起こるものなのです。ですからトラウマは特別なことではなく、誰にでも起こり得ることと考えられるのです。
 

 こうした考えのもとSE™では、身体に意識を向けることでとどまっているトラウマのエネルギーを解放し、トラウマによる症状を健康な状態に変容させていくことを目指します。さらに、SE™を繰り返し受けていくことで、耐性領域の幅は広くなり、神経系の柔軟性も高まるので、多少のストレスにであっても対応できるようになり、より穏やかな生活を送れるようになる方が多いです。ぜひ、体験してみてください。
 なぜ対話による進め方ではなく身体に働きかけるのかについては、またの機会にお伝えできたらと思います。