トラウマとバウンダリー

 バウンダリーは境界線といって、自分と他の人あるいは、自分と他のものとを区別する境目のことです。自分を守るための見えないバリアともいえます。バウンダリーは誰でももっているもので、誰もがお互いにバウンダリーを尊重することによって安心・安全な環境や関係をつくっていくことができます。ところが、トラウマを被ってしまうとバウンダリーが破壊されて、安心・安全感がなくなってしまうことがあります。

バウンダリーとは

 バウンダリーについてもう少し説明します。バウンダリーにはさまざまな種類があります。野坂先生の著書(学校でできるトラウマインフォームドケア)ではわかりやすく物理的なもの、心理的なもの、社会的なものの3つに分けられています。
 物理的なバウンダリーには、身体や持ち物、対人距離などがあります。たとえば、自分のカバンを見知らぬ人に触られたり、知り合って間もない人に肩を組まれることは、物理的なバウンダリーの侵害となり得ます。
 心理的なバウンダリーには、気持ちや考えなどが含まれます。一方的に相手の思いを押し付けられたり、脅されているのに不服ながらも従ってしまう、Noと言えなかったりすると、心理的なバウンダリーが侵害されてしまいます。気持ちや考えは人それぞれであり、尊重されるべきですよね。
 社会的なバウンダリーには、ルールやマナーなどがあり、法律や校則のように明確に決まっているものから、マナーやエチケットなどの礼儀も含まれます。これは日頃から親しみがあるかもしれません。たとえば、約束した時間を守る、あいさつをするといったものがあります。
 このようにバウンダリーは誰もがもっているものであるとともに、ありとあらゆるところで機能するものなのです。

トラウマを被ると

 では、バウンダリーが傷つくとどうなるのでしょうか。交通事故にあった人が、何度も同じような事故にあう、右側からぶつかられて以来ケガが多くなったり、右ばかりぶつかることが繰り返し起こる場合、バウンダリーが損傷している可能性が考えられます。あるいは、虐待を受けて育った、不適切な養育を受けた人の場合には、バウンダリーは育ちにくいことが多いでしょう。バウンダリーは幼い頃から、身近な大人や経験から学んでいくものですが、こうした逆境体験をもつ人は、その人自身を尊重されてこなかったために適切なバウンダリーが何なのかがわからなくなります。そのため、理不尽な仕打ちを受けても自分が悪いと思ってしまったり、本当は嫌なのにNoと言えなかったり、危険な人(自分を大切にしてくれない人)に近づいてしまうといったことが起こります。また、バウンダリーが損傷していると、過度に警戒して『世界はこわいもの』と思ってしまったり、必要なチャレンジができずいつも回避してしまうという事態に陥ることもあるのです。
 上述した例はほんの一部ですが、総じて心が傷ついてしまったとき、つまりトラウマを被ったときには、バウンダリーも損傷し、日常生活の中で支障をきたしてしまうことが考えられるのです。

バウンダリーに気がついてみましょう

 バウンダリーには、柔軟性があります。なので、いつも同じではなく、ときや場所、相手によって変化するものです。自分のバウンダリーを尊重できると、他の人のバウンダリーも尊重しやすくなります。まずは、自分のバウンダリーを意識してみましょう。ポイントは、自分が安心できるかどうかです。その場所や人といてホッとできているか、安全だと感じられるか、違いを尊重し合えているか…。
 もし、バウンダリーが傷ついても修復は可能です。一人では難しいこともあります。ソマティック・エクスペリエンシング®で身体の声を聞きながら、安全にバウンダリーのお手当をしてみませんか。