トラウマを受けた人が、過去の出来事と同じようなことを繰り返してしまうことがあります。これをトラウマの再演といいます。
たとえば、自分を傷つける人に自ら近づいていってしまう、何度も似たような事故に合う、など。虐待を受けてきた人が、加害行為をしてしまうということもあるでしょう。

トラウマの再演は、本人には無自覚に行われます。ですが、繰り返し起こるたびに傷つき、自分を責め苦しみ続けるでしょう。一方で、こうしたことが繰り返されると周囲からは自業自得だと思われたり、ときに咎められてしまうため、本人は一層傷つき、孤立感を深めてしまうことになるのです。

トラウマの影響を受けている人は、また危険なことが起こるに違いない、誰も信用できない、自分は愛されていないという考えに囚われています。トラウマは過去の出来事なのに、危険が過ぎ去った今もなお警戒し続けているのです。そしてそれを現実にしようとして無意識に行動に移してしまうことから、同じようなことを繰り返してしまうと考えられています。先に述べた周囲からの無理解を引き出すことも、トラウマの再演にあたります。

再演は再トラウマ体験となり、事態を悪化させてしまいます。さまざまなトラウマによる影響を本人はもちろん、周囲にも知ってもらうことは大切なことです。そしてこれ以上傷を深めないように、トラウマから回復しこれからの人生を豊かにしていくために、必要な援助を求めていきましょう。

参考文献：野坂祐子（2019）トラウマインフォームドケア 日本評論社